◆ヤクザに抗争はあるか◆

「死ななきゃいいってもんじゃないすよ。
 体が不自由になるって大変ですよ」

―若手組員D

 

暴力団の抗争で人が死んだり拳銃が使われたりするのはごくまれです。また、山口組の分裂抗争などを除いて組織的に背景がない個人的なトラブルがほとんどで、あまり大きな事態にはならずに数日で収束します。

でも、小さないざこざにこそヤクザの厳しさがあります。

若手組員Dはある日、兄貴分とキャバクラで飲んでいました。兄貴分が別の組織の顔見知り(本来敵対していない)と鉢合わせして、酔った勢いでくだらないことでケンカになりました。普通の不良同士のケンカと違うのはこの場で負けてしまうとヤクザとしてのメンツが立たない、組織の恥になるということです。

Dもケンカに参加しましたが、転んだ拍子に割れたグラスで手のひらをザックリと切りました。ケンカの相手も「おい!大丈夫か」ととっさに声をかけてしまうぐらい血が噴き出しました。

Dはすぐに車に乗せられてその場を離れました。車の中で改めて手を見ると、骨が見えるくらい深い傷でした。しかし、警察にも病院にも行けないのでアパートでアホな10代のキャバクラ嬢の彼女からマツモトキヨシで買ってきたマキロンと傷テープと包帯で、Dに言わせると「クソ手当」だけを受けて痛み止めを飲んで寝込みました。翌日、兄貴分から「手打ちになった」というラインが入ってホッとしました。

1か月くらいして、傷はふさがりましたが、左手の指が動かなくなっていました。最初はずっと包帯を巻いていたから手が固まっているんだと思っていましたが、いつまでたってもグーチョキパーさえ作れません。「料理をしていて手を切った」とウソをついて病院に行くと「神経が切れていてもうつながらない。どうしてすぐに病院に来なかったのか」と言われました。

リハビリを続けましたが、回復せず、左手は今も使えません。ケンカに巻き込んだ兄貴分からは見舞いも謝罪もなく。

「病院の帰り道、親に『身体障害者になっちゃったね』て言われたのが一番こたえました。自分、結構スポーツできたんですよ。体が丈夫なのだけが自慢だったし。まともな人生だったら、体が不自由になんてならなくてすんだのに、親からもらった大事な体だったのに、って考えたら、なんか、すごく」