◆自分が「ヤク中」と知らぬ人たち◆

「すげーアガるカクテルだったんですよ」

―外資系銀行勤務 H

◆無自覚◆
薬物使用で逮捕される人間の多くが「冤罪です!助けてください!」と主張します。ヤクザや検挙歴のある常習者は腹を決めて否認しますが、一般人の使用者は取り調べ中の刑事も「コイツ、本当に自分がドラッグをやっているっていう認識がないんじゃないか?」と疑う容疑者は多いそうです。彼らは自分がドラッグを使用しているなんて本当に思っていないそうです。警察官は取り乱した彼らに質問を変えて聞き直します。「最近、何か服用した薬とかサプリはありますか」彼らはしばらくうつむいて「疲労が取れて仕事がはかどるビタミン剤のカプセル」「飲み物に混ぜるとダイエットに効く粉末」「ベロに垂らすとリラックスできる液体」などがあると話します。それが違法な成分を含んでいることを本当に知らなかったのです。



◆あるエリートの転落◆
外資系銀行に勤務するHは東大卒、アメリカでMBAを取得して40代で年収が4000万円近くあるエリート銀行マン。独身貴族で六本木や西麻布で芸能人のタマゴやグラビアアイドル、舞台女優と飲み明かす毎日でした。そこに現れたのが自称芸能プロダクション社長の謎の男J。どこからともなく美女を連れてくるので重宝していました。ある晩、カクテルを飲む前に「きょうは特別なブレンドがしてある。一緒に盛り上がりましょう」と耳打ちされました。泥酔の中飲み干すと全身から熱が沸き上がると同時に疲労が吹き飛ぶような不思議な快感に襲われました。Hは「この酒きくー!」などと言って楽しい夜を過ごしました。Hはそれから何度もこの男と店に行くようになり、そのたびに「スペシャルカクテル」を注文するようになりました。一定期間がたつと口にしたくなるようになり、店の会計も最初は女の子のチップ込みで10万円前後でしたが、いつの間にか20万円に跳ね上がっていました。薄々「あの酒はヤバい」という感覚は持ちながらもHは店から離れられずにいました。

結局Hは「スペシャルカクテル」を飲んだ年末に別のバーで暴れて料金を踏み倒して無銭飲食=詐欺で翌日になって警察に逮捕されました。警察は当時の様子が異様だったことから尿検査もしましたが、すでに「スペシャルカクテル」は抜けていました。弁護士を通じて店と示談し、送検だけされて保釈となりましたが、帰りの荷物をまとめているときに薬物担当の刑事が「今回はセーフだと思ってるかもしれないけど、絶対やめろよな」と言われました。その時、Hは自分がいつのまにか薬物のトリコになっていた、警察から見ればただの「ヤク中」にしか見られていないことに気付きました。Hはその後バーには近寄らず、会社を転職して静かにエリート人生を歩みなおしています。

ちなみにJは危険ドラッグの原料を輸入した罪で警察に捕まり、違法な成分を含むパウダーを六本木、西麻布界隈で金持ちの社長や芸能人のタマゴの女の子たちに売りさばく売人だとわかりました。芸能事務所など一切経営していませんでした。

最初から違法なドラッグだと知って手を出すという人は少ないものです。飲み会やパーティーで飲み物に入れられたとか「疲れが取れるサプリ」「ダイエットに聞く薬」「集中力が高まる飲み物」などと言われて口にしてしまいます。売人は客が次々と捕まったり、金払いが悪くなっていなくなったりするので新規開拓を狙っているのです。ちょっと変わった飲み会だなと思ったら出されたものに口をつけないほうがいいかもしれません。