ヤクザの指詰め(社会編)

◆指詰めはヤクザの自己破産◆

北野武監督映画「Brother」より

ヤクザ社会では断指して謝罪にきたヤクザを無下にすることはできません。断指して謝罪しにきたヤクザを追い返してしまうと「指まで詰めたのに席を蹴りやがった」と逆に謝罪される側の非を指摘し始めることもあります。要するに逆ギレです。

「カタギの土下座に似たようなもんやな。浮気した旦那が女房に土下座して謝ることあるやん。旦那が畳に頭をこすりつけても女房が『ウチは許さへん!』としか言わない。最初は旦那も頭を下げとるけど、しばらくすると『オトコが土下座までしてるのにその態度はなんや!おのれはそんなにエラいんかい!』と逆にタンカ切るやん。どう考えても旦那が悪いねんけど、周りも『アンタ、旦那に土下座までさせてまだ責めるんかいな。もう許したれや』みたいなことい言い始めて、だんだん女房の方が分が悪なって折れるやろ。あれと一緒やね。ホンマはスジもクソもないねんけど、指飛ばされたらしゃあないなあというハナシになってまうんねん」
-関西二次団体幹部




別のヤクザの幹部はヤクザの断指は一般社会での自己破産に似ていると指摘しました。ヤクザの社会でも基本的に謝罪にはカネが必要です。しかし謝罪に見合うカネが用意できなくてトラブルが解決できないときに勢い指を切断していけば話がつくというのは考えようによっては便利なシステムかもしれません。一般社会では指を落としても何も解決しませんし、借金もチャラになりませんが、ヤクザ社会ではそういったものがリセットできる必殺技として機能します。事業に大失敗して巨額の負債を抱えた社長さんの中には「小指の先っちょで済むなら楽なのになあ」となんて思ってしまう人もいるかもしれません。

◆「カニさん」伝説◆

何度も詰める場合は小指から薬指、中指と詰めていきます。両手で合わせて3本~5本も断指しているヤクザの人がいます。そういうヤクザはその手がカニのハサミのように見えることから「あの人カニさんやで」などと陰で言われています。どんだけ失敗したんだろうと思いましたが、こっそり周りの人に話を聞くと、大したことじゃなくても気軽に断指をして解決してきたタイプの人が多いようです。両手の小指と薬指をザックリ断指している親分は「2本までいったら3本も4本も同じことや」と言っていました。その人は覚醒剤をやっては指を詰めを繰り返しましたが、「とにかく交渉とケンカが強い」ということで大きな団体の本部長まで上り詰めました。確かにその人が敵対する団体相手に怒鳴っているのを何度か見ましたが「異形の手」を振り回しながら、覚醒剤常用者特有の「異形の顔面」からしゃがれ倒した「異形の声」「お前は絶対殺したるわいぃぃ!」などと怒鳴られると先方は恐れおののいていました。見た目が人間離れしているので底知れぬ迫力がありました。この親分は「異形の手」をレストランや喫茶店でも振り回して「カレーを5分以内に持ってこい」とか「コーヒーぬるいから作り直せ」とか傍若無人の限りを尽くしていました。

◆小指がないは無言の脅し◆

現代ヤクザは「オレはヤクザだ!」といって一般人に詰め寄ると瞬く間に逮捕されます。しかし別に自分がヤクザだと言わなくても小指がない手をチラチラ見せられたらそれはほとんど自分はヤクザだよと言っているようなもので相手に対する脅しは十分です。暴力団取り締まりがいっそう強化された近年では暴力団であればそもそも一般人との交渉の場に行くだけで脅迫や恐喝で逮捕されますが、「元ヤクザ」がこの手をよく使って債権回収やトラブル解決を行うそうです。普通に服を着ていれば見えない刺青をわざわざ服を脱いで見せたりすることは自分がそういうスジの関係だというのを積極的に見せることになり、「威迫」の根拠になりますが、断指した手は「普通にしていて見えてしまう身体的特徴」にしか過ぎないので、警察でもなんともやりにくいそうです。

そんな程度の低い人生を送らずに本当にカタギになって暮らそうという人はちゃんと義指を作って生活しています。