北朝鮮のマネーロンダリング=資金洗浄に絡んで日本の三菱UFJ銀行がアメリカの検察当局から捜査を受けたそうです(2018/11)。「ロンダリー」は「ランドリー=洗濯」と同じ意味です。あちらの発音に寄せてしまって「ロンダリング」になってしまいました。「マネーランドリー(ング)」だったらもっと日本にもなじみやすかったと思うんですよね。
マネロンは「資金隠し」
マネーロンダリング=資金洗浄は簡潔に言えば犯罪で得たお金を隠し持つこととです(窃盗や麻薬の売買などの純粋な犯罪だけで無く北朝鮮のように国際法で制裁対象になっている国が商売をすることやテロリストがテロ資金として持つことも含む)警察庁や金融庁、金融機関のHPを見ても「洗浄」の説明から入るものだから、分かりにくくなってしまいます。単純に「資金隠し」と呼ぶ方が実情に即しているし、わかりやすいと思います。
他人名義口座の利用
「オサマ・ビン・ラディン」「イスラム国」「アルカイダ」「キム・ジョンウン(金正恩)」「キム・ジョンイル(金正日)」「司忍(山口組組長)」「住吉会」「稲川会」などテロリストや反世界、反社会的な組織や人物の名義の口座は捜査機関に見つかり口座凍結に遭います。なので、他人の口座に無関係を装って送金、貯蓄します。事例を説明した方がわかりやすいと思います。事例1. 他人名義口座型 麻薬王の場合
麻薬取引で1億円の利益を得た。現金を段ボールに詰めて山の倉庫に隠してもいいが、安全に預金して合法的に使いたい。
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バイト10人に1人あたり金融口座10口座、合計100口座を作らせる。
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麻薬取引で得た1億円を小口で100万円ずつ100口座に振り込ませる。
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キャッシュカード(+暗証番号)100枚を回収。
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キャッシュカードは麻薬王名義ではないので、凍結の心配も無いし、買い物に使ったり、ATMで下ろしても捜査当局にバレない。バイト10人に10万円のバイト料=100万円を払ったが、9900万円が安全に預金、使用できると考えれば大した出費ではない。
マネーロンダリングのほとんどはこのシンプル型です。
日本の暴力団の摘発も暴走族の後輩や街の飲み屋のマスターの口座を買い取ったというものばかりです。警察が「暴力団幹部による組織的マネロン事件」などと大仰に報道発表するのにいささか違和感を覚えます。
事例2.複雑・国際犯罪リアル洗浄型
北朝鮮政府高官Kは中国企業の社長Aと秘密裏に1億円分の取引をした。北朝鮮は制裁対象で国際法上、取引は違法。Kは世界中の捜査機関に見つからないようにAから取引代金をもらう必要がある。※現金で北朝鮮に運ぶことは不可能。
AがKに口座番号などを知らせればいいじゃないかと思いますが、Aはそんなわかりやすく危ない橋はわたりたくないと拒否。仕方なくKは知り合いの日本企業の社長Bに手数料300万円を約束に口座を借りて社長Aから社長Bの口座に架空取引の代金として1億円の送金を依頼。
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AからBへの1億円の送金は日本の金融機関や税務署も検知します。架空の取引を装って税金を納めなければ捜査当局やマルサ(国税局査察部)の追及を受けます。
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BはAに1億円分の高級腕時計や宝飾品を販売して、その代金を送金されたと、ウソの取引で得た利益を申告します。
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税金は企業の利益にかかります。利益を少なくすれば税率も下がるので、社長Bは「Aに売った宝飾品は9200万円で購入したもの」と説明(利益が800万円以下は税率が25%のためそのように設定)します。
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1億-9200万=800万円の利益を申告し、800万円×税率25%=200万円の税金を納めたので、正規の商取引による利益に見えます。表向きは中国企業と日本企業の取引にしか見えず、税務署も警察も追求してきません。
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1億円が納税で200万円目減りするもののBの口座に9800万円が合法に預金されました。Bは煩雑な確定申告の手続きと危険な橋を渡った手数料300万円を現金で引き出し自分のものにした後、ネットバンキングのIDとパスワードをKに伝え、口座を譲渡します。
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Kは税金200万円+Bの手数料300万円=500万円の経費を払いましたが、9500万円のきれいな預金口座を手に入れました。世界中で取引や買い物をしてもBの支出にしか見えませんし、そもそも全額引き出せばそれで終わりです。
※マネロンは多額の送金を行うため高額な商材の架空取引を装います。高級車や宝石の取引を装うことが主流ですが、最近はパソコンのサーバー利用代金やコンサルタント料、現代アートなど資産価値の判断が難しい商材も増えているようです。無名の画家が描いた二束三文の絵画でも「このアーティストは伸びると思ったので1億円で購入した」と言われたら捜査当局は抗弁しづらいです。
捜査の実態 どうやって不正送金を見つけるか
世界中の送金トラフィックの中から、K,A,Bの関係性を掴まなければこうしたマネーロンダリングを見つけることはできません。各国の捜査機関(FBI・インターポールなど)や諜報機関(CIA・MI6など)はKがBと国際電話で話した通話履歴や、脱北者からKがAと懇意にしていた話を聞き出したりと、割とアナログな捜査をしてKとA、Bの関係を突き止めて口座を調べて不正送金を見つけます。そのほか、多額の送金直後に全額が引き出されるなど入出金が頻繁な口座や、口座の持ち主が
近年はネットバンキングや仮想通貨乗りようが広がり、マネーロンダリングは非常に見つけにくくなっています。
金融機関が関与していたらお手上げ
マネーロンダリングが行われないように各国の捜査機関や監督官庁は銀行やカード会社などに不審な口座の開設や送金に荷担せず、怪しい取り引きを見つけたら通報するよう指導しています。
しかし金融機関からすれば汚いお金であってもきれいなお金であっても。「お金に色は付いていない」ので、預金されてしまえば同じお金です。金融機関は預金額を増やせ、送金の手数料も稼ぐことができるので怪しいなと思っても不審な口座の開設や送金に目をつぶることがあるかもしれません。発覚して、捜査当局に追及を受けても「気づきませんでした」という言い訳ができてしまいます。実際巧妙な手口の取引の場合、分かっていながら目をつぶったのか、本当に気づかなかったのかを立証するのは困難です。金融機関の担当者が脅迫や買収を受けている場合もあり、そうなるともうお手上げになってしまうと思います。
アメリカに実在した税関の潜入捜査官ロバート・メイザーは資産3兆円とも言われたコロンビアの麻薬王、パブロ・エスコバルの麻薬カルテルにアメリカ人の麻薬密売人を装って潜入し、資金洗浄の仕組みを解明しました。捜査の結果、買収された国際商業信用銀行の担当者が麻薬カルテルの金の管理を行っていたことが分かり、世界中が後ろ向きにひっくり返りました。おととし映画化された「潜入者」はとても面白い映画です。
カジノや芸能事務所などを利用したマネーロンダリングについてはまた次回お伝えします。