◆ゴルゴ13はいるか◆
「2000万でXXを殺してくれ。
ヤツは毎週金曜日に愛人の家に来る
その時はボディガードをつけず1人になる」
マンガ「ゴルゴ13」のような報酬を得て不特定多数を殺害する人は海外では「コントラクトキラー(契約暗殺者)」と呼ばれるそうです。日本では少なくとも私は聞いたことがありませんし、そうした人物が検挙されたこともないのでおそらく存在しないと思います。特にヤクザの世界の抗争に部外者にカネを払って誰かの殺害や襲撃を依頼するということは世間体、正確性、失敗した場合のリスクなどを考えるとありえません。組織への忠誠心も、人質となる家族などの情報もないような氏素性のわからない人物に組の一大事を任せません。
◆ヒットマン◆
ヤクザの世界にはヒットマンと呼ばれる人たちがいます。彼らは抗争事件の時に敵対組織の人間を襲撃する人たちですが、それを専門に担っている人ではありませんし、「ヒットマン」という役職もありません。日常的にはヤクザとして組の当番など通常業務をしていて、いざとなったときに親分たちからコッソリと呼び出されて「やってこい」と言われて初めてヒットマンになります。
◆ヒットマン全盛期◆
ヤクザが元気ハツラツだった昭和の時代は法整備も行き届いていなく、広島や大阪の街中でヤクザがバンバン射殺されていました。文字通り「殺してナンボ」の世界で、「ヤクザはタマを取って一人前」な風潮があり、実際、有名な親分は殺人前科のある人ばかりでした。当時はこうした抗争事件の懲役は「7年相場」と言われ今とは比べ物にならないほど軽いものでした。ヤクザも景気がよかった時代で刑務所に入っている間は家族の面倒は組が見てくれるし、出所してきたら幹部に出世できるうえに報奨金まで約束されていました。ある団体では抗争事件で敵対組織の人間を殺害して服役すると1億円程度の報奨金が約束されていました。うだつの上がらない組員でも7年くらい刑務所に務めて出てきたらカネと出世がついてくるということで「男になってこい」などと言われて喜び勇んでヒットマンになる若者が多くいました。
◆現代ヒットマンはメリットがない◆
しかし、法整備が進み、社会が成熟した現在ではこうしたヒットマンは1人の殺人でも懲役20年から30年服役することが多くなりました。20代でやったとして出てくるときは50近くになっています。景気も悪く報奨金も減っているうえ、そもそも20年以上もたって刑務所を出てきたら自分の組がつぶれているかもしれません。結果、ヒットマンなど誰もやりたがらない時代になりました。
現在、「ヒットマン」と呼ばれる組員は本当に殺害を目的とせず、車や事務所に拳銃を撃ち込んで穴をあけたりする人たちのことを指すのがほとんどです。
◆殺しの専門家はいる◆
去年、「週刊新潮」が関東の団体の元幹部の死刑囚の殺人事件の告白をスクープし、警察が捜査した結果、2人の遺体が見つかりました。結局はカネが殺人の動機でしたが「やっぱりヤクザは人を殺している」ということを世間に知らしめた事件でした。
この元幹部はそもそも銃乱射で4人を殺害した罪で死刑が確定していて、この事件を含めると人生で少なくとも6人も殺害していることになります。このように別に「ヒットマン」という役職ではないものの、組の中でやや専門的に殺人ばかり請け負っているという人はいるようです。
ヤヤクザは突発的な路上の喧嘩殺人や銃撃などを除いて、そこらへんに死体を転がしたままにしておきません。単純に遺体が見つかれば警察の捜査が及ぶからです。人を殺した場合、この元幹部のように遺体の運搬や遺棄まで行い、「行方不明」にします。それには特殊な手際の良さや度胸、保秘の徹底できる子分をそろえることなどができる人間がこうした処理を担当することになります。
こうした人物はヤクザの中の「殺し屋」と呼んでもいいのかもしれません。