「お歳暮の送り忘れなんかしたら、
腕ごとぶっ飛ばされますよ」
―お歳暮住所担当組員
◆届け!年賀状◆
新年のあいさつはヤクザにとってはとても大事なもので年賀状はその最たるものです。昔は代紋をバッチリ印刷した立派な紙で、団体によっては組長以下全員の名前が列記されたものまでありましたが、現在は組の代紋や「〇〇組」と書かれた年賀状は郵便局で配達拒否されてしまいます。暴排条例を知らずにせっせと書いて送ったら郵便局からお断りを食らって全部一から書き直したなんて団体もありました。場合によっては警察の手に渡り、「〇〇組は△△組と親しいんだな」とか「〇〇組のチンピラだったヤツの肩書が幹部になっている」などといらぬ情報も見られてしまうことになります。最近は普通の個人名が書かれた年賀状のやり取りが一般的なようです。
カタギの関係者、フロント企業などとは年賀状のやり取りはしません。警察は暴力団事務所や幹部の自宅を捜索するときに真っ先に郵便物を探します。たとえば覚せい剤の容疑で捜索に入ったとしても副産物的に押収した郵便物の送り主・送り先を洗うことでマネーロンダリング、他人名義の銀行口座やカードを請け負っている人物、フロント企業との関係などが解明できるからです。年賀状など親密さを裏付ける証拠として押収されたらかなわないのでやり取りしません。
◆毎年恒例お歳暮合戦も今は昔◆
サラリーマンのようにタオルやハムの詰め合わせではなく、自分たちの地元の名物などが中心です。海の近い団体であればかつお節や海苔、山の近い団体であればジャムやワイン、米所であればお米や日本酒など。
毎年、若手の組員はお歳暮リストを目を皿のようにして見て確認して発送しています。大きな団体だと日本中の親戚・兄弟分に送る大イベントになり「お歳暮実行委員会」的なものまで立ち上がります。
大親分同士では豪快に送り付けあう文化があり、サクランボ100個 vs カニ100キロみたいな不毛な見栄の張り合いが行われています。生モノなどは直接トラックで運んでくることも多く、年の瀬になると歌舞伎町の区役所通りで軽トラからナシやリンゴとアジやサンマを交換したりする様子が見られます。とてもヤクザだけでは食べきれないので街の飲食店などに配って回ることが多いです。なので、歌舞伎町中のキャバクラでサクランボやリンゴが大量発生したり、そこらじゅうのスナックのママさんが「ねえ?サンマいっぱいあるんだけど食べない?」なんて聞いてくる怪現象が起こります。
現在はヤクザの荷物の配送は拒否されることが多く、お歳暮のやり取りも警察の捜査対象になってしまうのでお歳暮文化はかなり下火になっているようです。送りあう場合でも組事務所などでなく親分の自宅や関係先にしているようです。
◆カタギの知り合いにお歳暮は厳禁◆
特にカタギの知り合いにお歳暮を贈ることはほとんどの団体が辞めました。誕生日プレゼント、開店祝いなども自粛しているか、遠回しに誰かを経由して渡しています。
2008年
こんな事件もありました。
府警捜査4課はA組幹部に中元、歳暮を贈ったと して大阪市の建設会社「B」を公共事業の指名業者から外すよう府や同市などに通報した。 同課によると、同社は昨年7月と12月、幹部あてに1回4000円相当の商品を贈り、返礼として各5000円相当の商品を受け取ったという。 府警は府などの要綱の規定「暴力団との社会的に非難される関係」に該当すると判断(毎日新聞より)
年賀状の問題に似ていますが、年賀状はそれ自体には価値がないものなのに対し、お歳暮はまさに物品=贈り物=価値があるものになってしまい、より厳しい判断がなされたのです。ヤクザはいつも世話になっているカタギの社長さんにお礼をしようと送ったのでしょうが、逆に社長さんの会社の息の根を止めることになってしまいました。
この事件は暴排条例の怖さをヤクザ、そしてカタギの人たちに叩き込んだ事件でした。当時、かなり業界で話題になり、これ幸いにと「今後、お歳暮は勘弁してください」と言い出せる空気が広がりました。警察はこうして日常生活の端々に法律を行き届かせることでヤクザを孤立化、弱体化させていったのです。