「俺たちは引かねえっていう
いい意味での話がホントなんだよ」
―博徒系幹部
◆0点台無し人生=ヤクザ◆
ヤクザの語源は花札の8、9、3だといいます。
花札の「三枚」というゲームは「カブ」と呼ばれ、トランプのブラックジャックとバカラを混ぜ合わせたような遊びで、江戸時代から昭和に流行った遊びです。猪鹿蝶や松、梅、月などの華やかな絵札ではなく1~10までの数字を表す絵柄が書いてる特殊な「株札」という花札を使います。
まず2枚の札を引いてその合計の一桁目の数字の大小を争うゲームです。
例えば1枚目が5、2枚目が9の場合
7+9=16で、一桁目の数を取って点数は6となります。
ここでもう一枚引き勝負をかけたいところです。
1が出れば6+1=7点
2が出れば6+2=8点
3が出れば6+3=9点
しかし、
5が出ると6+5=11⇒1点
になってしまいます。
最悪4がでると6+4=10⇒0点
“ブタ”と呼ばれその時点で敗退です。
話を戻してヤクザの目を見てみると、
8+9+3=20→「0点」です。つまり、このままの通りでみれば最悪の出目、0点=“ブタ”ということになり、ヤクザは0点人生ということになります。
警察や暴力団排除のキャンペーンなどではよくこの逸話が持ち出され、「ヤクザというのは古くから最低の人間の集まりなわけです」などと言われます。
◆17で止まらない人生という解釈◆
しかし、ヤクザとこの話になると、決まってニヤニヤしながら「アンタは何もわかってないねえ(笑)」などと言いながらこれを否定します。そして「普通の人が17だったらやめるところをもう一枚引く―それでブタになるかもしれないけど、半端なところでは終われねえんだっていう度胸と粋がわかるのがヤクザだ」と主張します。
実は1枚目が8、2枚目が9というのは
8+9=17⇒7点でかなり良い目です。
合理的な判断をすれば3枚目が1で
17+1=18⇒8点
もしくは
2で2+17=19⇒9点
という2パターン以外は負けることはないので、3枚目を引かずに待つのが得策です。しかし、ヤクザは3枚目を引いてブタ、ドボンするわけです。
普通の人は非合理的だととらえますが、ヤクザの価値観では「度胸がある」とか「ハンパなことはしない」などという言葉に置き換えられて美化されています。
◆現代八九三の実際◆
とはいえ現代のヤクザでそんなにドラスティックに生きている人は限られています。さらにいうと、そういう生き方をして早死にしたり、刑務所に行ったりしても「カッコイイ」という風には認識されないと思います。
「最近の若い子たちだと8→8=16=6点くらいでも3枚目をめくらないんじゃねえですかね。俺たちの時は総長賭博なんてのがあって、一晩で丁半に1億も2億も張って足りなかったら家の権利証もってこいなんて遊んでたもんですが。今は大きく張らずに堅実に賭けて、トントンか、微増みたいな人が賢いねえなんて言われる時代じゃないですかね。少なくともブタが豪快だなんて風潮はないですよ」―ヤクザOB