仮想通貨ビットコイン詐欺と手口
ローンチ詐欺・未公開セミナー

シンプルな詐欺

最近の仮想通貨トラブルはよく話を聞いてみると仮想通貨、なんとかコインというお題目がついているだけでただ単にカネを集めてドロンという古典的な詐欺ばかりです。
ある日、知り合いのツテで「ビットコインの詐欺にはめられた」という人が相談してきました。

話を聞くとビットコインビジネスのカリスマのような人から「海外の秘密のシステムで元金が何十倍にもなるすごい儲け話がある」という話を聞いて出資していました。

お金を渡してしばらくすると先方からLINEで「システム障害で換金ができなくなった。もう少し待ってほしい」とか「新しいサイトを立ち上げたのでそこにログインしてください」などとメッセージが来ていたもののしばらくすると音信不通になったということでした。


「ビットコインを預けたんですか?」

「いえ、儲けがビットコインというです」

「??最初のお金は?」

「消費者金融から借りて現金で手渡しました」

ビットコインで儲かるというシステムが書かれたスマホのサイトや、自分のビットコインのアカウント、英語のややこしい契約書に加えて、海外の財務省からヨーロッパの本部の資産が凍結されたとか、また別のコインが上場すれば取り戻せるという説明があったということでした。

しかし、この話の大事なところを抜き出して冷静に考えてみると「会ったばかりのよく知らない人に現金を手渡しした」というシンプルな事実だけが浮き上がってきます。

そもそもこの人物がその儲かるという「システム」に関わっていたという証明がありません。ただいろいろとウマい話をして現金を受け取っただけの人物で、そのまま何にも投資もせずに現金そのままでただ遊んでいるだけかもしれません。

その人物についてはLINEと携帯電話の番号は知っているものの住所は知らないとのこと。名前や社名を聞いても「名刺にそう書いてあるのでそうです」とのこと。

名刺だけなら誰でもドランルド=トランプだとか安倍晋三を自由に名乗れるわけですが、話術がうまかったのか頭から信じてしまったようです。

そうはいっても100万円近くを出資したということです。どんなに話術にたけていても、そう簡単には出資しないでしょう。どうしてその人が「すごい人」と信じたのかと聞きました。

高級ホテルを貸し切って、パーティーを開き、出資を募っていたというのです。美人を引き連れて高級車も乗り回していたし、毎日外資系ホテルで高級な食事をしながら過ごしていた。海外旅行にも頻繁に出かけて、高級ホテルで遊んでいたので、この人なら間違いないと思ったというのです。

「ローンチ詐欺」

詐ヤクザの周辺者から話を聞くとこういうのは最近はやりの「ローンチ(立ち上げ)詐欺」というものだとわかりました。

ローンチとは英語のLAUNCH=乗り出す・打ち上げるの意味だそうです。IT業界を中心に広がってたビジネスワードで、今では大手企業でも「新しいサービスをローンチします」などと使うようになりました。決してローンチ自体が怪しいビジネス手法ではありません。

ローンチ詐欺はこのトレンドにのっかったもので何か新しいビジネスを立ち上げる、みんなで出資してお金持ちになろうと煽りまくってカネを集めてどこかへいなくなるというすごくシンプルなものでした。その中心が仮想通貨がらみの案件だというのです。

「最近、仮想通貨とかアフィリエイトで実際に儲けてる人いるじゃないですか。まったく流行ってない時代だったらすぐにウソだと思って誰もついてかなかったんでしょうけど、最近は『この話は本当かもしれない』って信じさせる下地があるんですよね。実際は『新しい商売があるんだけど出資しないか?』なんてのは昔から使い古された手口なんですけど、仮想通貨とかアフィリエイトとかいうワードを前面に押し出すとなんとなく今風な感じがするんでみんなひっかかるみたいですね」

その後、別のヤクザのツテで似たようなパーティーがあるから行ってみないかと誘われ、実際に見学してきました。

巨大なホールを貸し切って音楽や照明を派手に使ったセミナーともパーティーとも言えないような異様な集まりで、数千人が参加していました。みんながやたら笑顔の不思議な会場でした。

「今は激安の新型仮想通貨を間もなく公開する。今のうちに買っておけば何倍にもなる」というきわめて単純な儲け話に誘うものでした。何年か前に流行った未公開株の詐欺の手口を思い出してしまい、不審に感じてしまいました。

開始から間もなく、突然会場が暗くなりました。

「今日はビッグなゲストが急きょ駆け付けた」と司会が叫びました。謎の外国人がスモークの中から自信たっぷりに現れました。いったい誰だか全く分からない外国人でしたが盛大な拍手で迎えられました。

「エドワード・スミス」みたいなありがちな名前だったと記憶しています。司会がやたら「あのエドワード・スミスがわざわざきてくれた。これはとんでもないことです」とアジり続けるので会場ではエドワード・スミスは世界的な著名人という何の根拠もない「設定」を前提として話が進んでいきました。

エドワード・スミスはスティーブ・ジョブズのようにヘッドセットをつけて舞台を上手から下手に下手から上手へとゆっくりと動き回り、きょうのこのビジネスチャンスがいかに素晴らしいかについて語ります。しかし、よく聞けば「ビリーブ」とか「ラブ」とか「アメイジング」とかの抽象的な言葉でアジり続けているだけでスキームの具体的で詳しい説明はありません。

エドワード・スミスが引っ込むと、突然謎の外国人美女軍団が歌とダンスを披露しました。

さらに「この会場でこれから車が当たる人がいます」というアナウンスとともに舞台に高級車が現れました。観客は熱狂する中、中年の女性が車を当てました。女性は舞台に挙げられて大型スクリーンの前で号泣していました。これは羽毛布団やしょうゆを高額で売りつける催眠商法の手口に似ているように見えました。

ド派手な演出が続き、会場のボルテージはマックスのまま幕を閉じ、みんな我先にと契約を急いでいました。しかし、肝心のなぜ儲かるのかや保障について詳しく説明されることはありませんでした。

ちなみにこのコインは2018年末段階で公開されておらず、インターネット上では「詐欺だった」という声が相次いでいるようです。

ローンチにはカネがかかる

こうした投資話は、あるんだかないんだかわからないビジネスモデルをたたき出して信じさせて、ただひたすらにお金を集めるだけなので当たれば大きな利益が見込めます。大人数から少額を集めるという手法がとられます。「1千万円出資してくれたら1億円になります」と言われても、相当慎重になりますが、「50万円を出資してくれたら500万円にします」と言われたら出資してしまう人が多いというところに目をつけています。

それでも1000人が50万円ずつ出資すれば5億円で、あっという間に大儲け。実際に詐欺だったのか、事業に失敗したのかはあいまいで警察も手が出しにくい案件なのに加え被害者たちも「まあ、50万だから仕方ないか」とあきらめさせられやすいです。

出資を募るにはまず最初に人を信じさせる演出が必要です。どでかい会場を貸し切り、高級車に美女をはべらせ、芸能人に会わせ、いかに自分が成功しているかをアピールします。そして、その周囲には自分のビジネスの話を信じて投資して儲けた仲間たちもはべらせ「さあ、あなたもこちら側の世界に来ませんか」と誘います。

その演出費用「タネ銭」を出資してくれる「金主」が必要です。それが余剰資金を持て余したヤクザ、もしくはその周辺者であることが多いようです。

しばらくたったある日、今度は別のヤクザから同じようなローンチ詐欺師についてLINEで「手配書」が回ってきました。「ローンチ詐欺」の被害者から情報を得て、関わっていた人間を追いかけてカネを回収しようとしているというのです。

免許証の写真と名刺付きで「こいつを見つけてくれたらお礼をします」となっています。

だますのもヤクザなら追いかけるのもヤクザ。なんとも悲しい世界です。