愛知県名古屋市のコンビニで釣銭をもらえないと勘違いした男性が店員に「土下座しろ。殺すぞ」と迫り、強要罪で逮捕される事件があったそうです。
男性は店員が小銭から渡して札を後で渡そうとしたことに対し、「なんで小銭しかよこさないんだ」と憤慨してこのような行動にいたったそうです。
結局、店員は土下座を迫られても土下座しませんでしたが、強要罪は未遂でも成立するため、男性は警察に逮捕されました。
警察官は男性から「釣銭をもらえない」と110番通報されて駆け付けていて、男性の大いなる勘違いがすべての原因だったようです。
各報道でも「男」としか報道されておらず、犯行の容態や罪名を鑑みて実名を出すほどではないという判断があったのではないかと思います。
強要罪とは
刑法第223条 強要罪
生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
ただ「土下座しろ」とか「謝れ」というだけでは強要にあたりません。「土下座をしないなら〇〇するぞ」とか「謝らないと家族を〇〇するぞ」などと
相手の要求してきたことに応じないと
生命を奪われたり
例「土下座しないと殺すぞ」
身体を傷つけられたり
例「土下座しないと殴るぞ・蹴るぞ」
自由を奪われたり
例「土下座しないとさらってしまうぞ」
名誉を傷つけられたり
例「土下座をしないならお前の裸の写真を撒くぞ」
財産を奪われたりする
例「土下座をしないならお前のサイフは返さないぞ」
という被害にあうということです。
また、
3 前2項の罪の未遂は、罰する。
と規定されているので実際に土下座をさせられなくても迫っただけで強要罪は成立します。
社会秩序・人権を守る大切な法令
強要罪は脅迫罪や恐喝罪に比べて少しヨワめの事案を取り締まるものですが、近代のまともな社会の中で「人を怖がらせて支配する」という乱暴で原始的な力学を食い止めるという意味では重要な法令ではないかと思います。
人を怖がらせてしたくないことを無理強いさせる連中を抑え、人権を守ろうという法律ですが、こういう単発的な事案に適応することが適切かということに関しては議論の余地があるかもしれません。
一般的に強要罪が適応される事件はお互いの利害関係や地位の関係(上下関係)がある中で「この人には逆らえない」という状況下での「無理強い」が一般的です。
さらに現場の警察捜査の実務的な話をすれば、単純な事実関係だけでなく暴力団やヤクザ、それに匹敵するような人に強い恐怖心を抱かせて自分の目的を遂行しようとする類の連中を抑えるために利用してきました。
会社のパワーハラスメントなどはよほどめちゃくちゃでない限り適用しない法律です。
特に暴力団ヤクザは「指を詰めろ」「謝罪文を一筆書け」「土下座して靴をなめろ」というような野蛮な要求をしますし、そういう文化を持った周辺者も存在します。
これまでの適用事例の統計などはありませんが、元来、やはり暴力団ヤクザやそれに似たような口調で追い詰めた場合が多いです。
そういう連中に対し、「傍若無人は許されないんだぞ」と叩き込むために逮捕することは必要かと思います。
一過性の突発事案に適用するか
今回は「コロスゾ」という物騒な文言を出しているのは論外ではありますし、実際どれだけ恐怖を覚えさせるような言動だったのかは報道からはわかりません。
しかし、包丁や銃器を持っていたわけでないようですし、お互い初対面の間柄だったようです。男性は単純な勘違いをしてカッとなり、感情的に出た言葉の色合いが強いのではないかと思います。
土下座ハラスメントは全国で事件化されており、今回もそういった通例に従ったのかもしれません。
しかし、社会にあふれる一過性のトラブルを時に仲裁して、人の在り方を正すのも警察の仕事の一つではないかと思います。
状況的に強要罪という法令をあてはめると、刑事事件化することができるのかもしれませんが、強要罪をこうした事案にさっと適用してしまう現代警察の在り方に少し疑問が残ります。
コンプライアンスの高まりの中、パワハラ上司に「今のは強要罪ですよ」と戦えることは社会の成熟であると思いますが、逆に「これは@@罪にあたるかもしれないからやめておこう」という不用意な委縮は社会の後退を促しかねないと思います。