🏨現代ヤクザのシノギ(不動産)🏨

「ウマい話は山ほどある。
オレたちは資格があるけどカネがねえ。
ヤクザは資格がないけどカネがある」
-関西不動産ブローカー

◆ネタはあるけどカネがない◆
世の中にはウマい話があるけれど、軍資金がないという人が結構います。数年前、東京であるラブホテルのオーナーから「普通なら3億はするホテルを、今週中に即金で買ってくれるなら2億で手放す」という話が同業者のオーナーA氏のところに極秘裏に舞い込んできました。裏事情を聞けば、別口でやっていた飲食店の事業に失敗し、突然、銀行への返済が必要になったとのこと。

実は、A氏は最近、関西の不動産会社の会長さんから「東京に利回りの良いラブホテルの物件を探している」という相談を受けたばかりでした。会長さんに電話をするとホテルのホームページを見て「この立地で3億なら買いますよ」との返事。

ただ物件を右から左に流すだけで1億近い粗利になる千載一遇のチャンスがやってきました。(不動産会社会長に買ってもらえば済む話ですが、そうすると転売益の1億円がでません)。
しかし、今週中に2億という無茶な条件の金額を用意できず、ほかの同業者も「買いたいけど即金で2億は用意できねえよな」とぼやくだけです。



◆ヤクザはカネはあるが資格がない◆

目の前になる限りなくおいしい話ですが、肝心な先立つものがありません。先方だって現金取っ払いだからこそ1億も値崩れさせてきているのです。
銀行の担当者に電話をしましたが、「融資できるとしても審査に1か月はかかる」との返事でした。
A氏が知り合いの不動産ブローカーに相談すると、「バカだな。そんなカネ誰も貸してくれるわけないだろ?こういう時はヤクザしかないんだよ。俺の知り合いを紹介するよ」とヤクザの名刺を見せられました。A氏は気乗りしないながらもホテルでヤクザと面会することになりました。

A氏「いい話があるんですが、
現金取っ払いじゃないとダメなんですよ」

若頭「いくらだい?」

A氏「今週中に2億」

若頭「そのくらいなら今日中にも用意できるぜ」

A氏「ありがとございます!」

若頭「うちは取りナナ(利益の7割)でいいな」

A氏「(それでも濡れ手に粟で3000万か)はい」

実はここでヤクザはこのネタを横取りして自分たちで買うという方法が頭をよぎりますが、ヤクザは大金を動かして不動産を売買すると暴力団排除条例や税金などいろいろな問題が出てくるため手が出せません。いわばこうした経済活動に参加する資格がないのです。逆説的に考えるとヤクザが触れない儲け話を素人が代わりに請け負ってやっているととらえることもできます。これが行き過ぎると企業舎弟とかフロント企業と呼ばれることになります。

◆すみませんではすみません◆

若頭「じゃあとりあえずAさんの会社の白紙委任状と決算報告書、預金通帳と印鑑、自宅の権利証持ってきて」

翌日、若頭に言われた通りA氏が書類と通帳を持ってくると若頭は不動産鑑定士と公認会計士を呼んで待っていました。

若頭「持ちホテルが3つで6億。全部銀行の抵当がついてるけど、年利は3000万近くあるのか。で、預金が1億5千万に自宅は世田谷で土地評価額を見ると1億ちょっとか。うーん。まあ万が一、失敗してもAさんの身ぐるみはがしてホテルを乗っ取れば3億くらいは回収できそうだね」

ヤクザは絶対に取りはぐれがないか重々確認したうえで融資を行います。万が一、儲け話が失敗した場合は文字通り身ぐるみをはがされて終わります。
A氏が待っていると、現金1億円の入ったスーツケース2つが積まれたワゴン車が現れました。運転手、後部座席には若い衆が座っています。

若頭「分ってると思うけど、うちからカネ借りたら
返せませんは通じないよ」

 

◆激動の数日間を乗り越えて◆

さあカネはできた!A氏はホテルの買い付けに動きました。背に腹は代えられない相手の社長も現金が詰まったスーツケースを見ると、2つ返事でホテルを手放しました。A氏は取引成立の直後に大阪の不動産会社会長に連絡を入れると会長さんは3日後には3億円を現金輸送車に積んでやってきて、A氏からホテルを買い取りました。これで取引はすべて完了。2億借りて2億払い、3億で転売。1億の粗利がでました。

2億+約束の7千万円を若頭に返し、自分は3千万の儲けです。家の権利証、通帳印鑑、借用証も取り戻しました。

冒険を乗り越えて、わずか数日間で差し引き3千万円の儲けになりました。救世主の若頭があらわれなったら、どこぞの同業者が買い叩いてボロ儲けするのを指をくわえてみていなければならなかったでしょう。

天にも昇る気持ちで3千万円をカバンに詰めながらふと思い出しました。

A氏「あ、そういえば白紙委任状は…」

若頭「それはうちで預かっておくよ。ほら、社長になんかあった時のためにさ。ところで俺の知り合いがさ、ホテルのシャンプーやタオルなんか卸してるんだけど、ちょっと付き合ってくれないかな?」

 

こうしてA氏は一生ヤクザにたかられる人生を送ることになりました。ヤクザからカネを借りるということはそういうことです。