「素人どついたら、身内に足下すくわれます」
-暴力団幹部K
◆精神的・風土的な部分◆
昔の任侠映画で「素人さんには手ぇ出しちゃあいけねぇ」というセリフがよく出てきます。
ヤクザには独特の精神世界があります。ヤクザは弱い者いじめ、広く「素人」に手を出してはいけないという文化は根付いています。ヤクザは犯罪者の集まりですが、そういう規範みたいなものの存在を標榜していることは事実で、ヤクザ社会全体の内規のようなものでどこの組織も共有しているものだと思います(標榜しているだけで行動が伴っていませんが…)
◆警察の捜査という実害◆
警察による暴力団追放の啓発が進んだ現代ではヤクザが素人に手を出さないという知識はかなり浸透しているのではないでしょうか。
警察は暴力団追放キャンペーンで「ヤクザが一般人に手出しするとすぐに警察に捕まり重い刑罰が科せられたり、組織ごと壊滅させられます。どんなに威勢のいいこと、恐ろしいことを言ってきてもヤクザは絶対みなさんに手を出しませんので、臆せず立ち向かってください」と説明します。実際はこれがヤクザが素人に手を出さない一番の理由でしょう。
◆ヤクザの社内的問題◆
ヤクザの世界にヤクザでない人=一般人=素人に手を出すのは規則違反です。違反がバレると処分の対象になります。表向きは「カタギに手を出して任侠道に背いた」ですが、実際としては「オマワリのネタにされるようなことしやがって」ということで、不祥事に当たります。ヤクザ社会では親分や兄貴分に誰が一番気に入られるかという出世レースの中で足の引っ張り合いが繰り返されています。「素人に手を出す=組にトラブルを持ち込む」という明確なルール違反は自分を出し抜きそうな同期や後輩の評価を下げるのにもってこいです。
場合によっては「素人ともめていることを親分や兄貴に知られたくなかったら儲けをよこせ」などという兄貴分たちもいるかもしれません。
そういう社内の派閥争いに巻き込まれないようにというのも素人さんには手を出さない一因になっているようです。なんとも女々しい話ですが、、、
◆え?ニュースでやってる話はどうなの?◆
「トラブルになった不動産会社社長を殺害・遺棄」
「知人の男性を組事務所に連れていき集団リンチ」
「100万円払わないと殺すと会社員を監禁」
暴力団の恐ろしい記事が新聞やテレビに踊ります。「素人さんには出を出さない」なんてのはウソじゃないか!ヤクザはやっぱりやるときはカタギでもやるんじゃないか!
いいえ。ほとんどのケースが被害者も普通の人ではありません。上の事件は実際にあった事件で私も顛末聞きました。まず、殺された不動産会社社長は偽装破門を食らった実質現役の企業舎弟の社長さんでカネのトラブルでシャブ中の舎弟に撃たれただけのでした。次のニュースの知人の男性は組事務所で寝泊まりしている「ほぼ組員」で、別の組織に移籍しようとしたのでアニキたちにヤキを入れられたのでした。最後の会社員はキャバクラの従業員で違法カジノのツケを暴走族時代の先輩の組員に半年以上、つけたままにしていて、追い込みをかけられただけでした。
このようにヤクザが手を出す相手で本当に純粋な「一般人」はほぼいないと思います。そもそも普通に生活していたらヤクザと接点など持ちません。とはいえマスコミも被害者のことを「自称自営業だけど今もズブズブの元ヤクザ」とか「毎日ヤクザと遊んでるプラプラしてるチンピラ兄ちゃん」とか書けないのでああいう記事になってしまうのだと思います。
マスコミの方には難しいかもしれませんが、一般市民に無用な不安を持たせずにもうちょっとホンネでニュースを出してほしいなと思います。