警察の捜査の実際について教えてほしいというお声があったので、書いてみました。
映画やドラマみたいな派手さはないですが、逆にえ?こんなものも調べられるの?ということはあるかもしれません。
警察は何でも調べることができる
警察は「私たちに調べられないものはない」と豪語するのは本当です。
裁判所の令状さえあれば本当に何でもかんでも調べることができます。人身を拘束する逮捕状と違い、捜索差し押さえ令状(ガサ状)は比較的簡単に出ます。
警察が情報の開示要求をするときに示してくる捜査関係事項照会書は、強い法的拘束力はないものの、ほとんどのは開示に応じているのが現状です。そもそも警察が大挙して来て、あれを見せろこれを見せろと言われたらたいていの人は法的根拠なんか度外視して、顧客名簿や防犯カメラの映像を見せるでしょう。
事件の際に警察が調べるのは以下のようなものです。
こんなモノが調べられます
携帯電話
携帯電話の場合は通信会社に紹介するよりも現物を押収して解析することが一般的です。LINEにしろメールにしろサイトの閲覧履歴にしろ端末に残っているものがほとんどです。
通話履歴-誰とどのぐらいの長さ話したのかという履歴の照会ができます。通話の内容やメールの内容は現物を押収しなければわかりません。
GPS位置情報ーかなり細かい地域が特定されます。リアルタイムで終えない場合でも、事後的にその地域で目撃情報や防犯カメラの映像を探し追跡を続けます。
電話発信位置情報・微弱電波-携帯の位置情報を確認することができますが、思っているほど正確でありませんし、電源が落ちれば全く反応しません。
※微弱電波について
電源が落ちてもわずかな電気信号の発信が続いているという都市伝説がありますが誤りです。
防犯カメラ映像
ドキュメンタリー映画
「あなたのすべての足取り(は監視されている)」
殺人・強盗・窃盗・交通事故など発生型事件の犯人の行方を追うことが多いので、コンビニや商店街などは令状なしでほとんど無条件にその場で開示します。警察は画像を広く捜査員や地域警察官と共有し、時にマスコミを通じ公開して検挙に役立てます。捜査はもちろん、容疑者検挙後には、裁判で証拠として使用されるのです。
都心の防犯カメラはほぼ無限に追いかけるることができるので電車やタクシーを乗り換えても無駄な抵抗です。
※以外とモメるのは「そういう団体」の事務所のカメラです。拳銃が撃ち込まれたんだから撃ち込んだやつや車が写っているだろうと言っても「警察に渡すわけにはいかねえ」と拒否され、令状を持って行く頃にはデータが消去されていることも。
金融機関口座
「詐欺や横領、組織犯罪」など内偵型事件では不審な振り込みや送金の捜査中、急に「見せろ」ということは少ないですが、逃亡中の場合などは利用履歴から足取りを追うために即刻開示を求めます。大体は、「捜査関係事項照会書」などを作成し銀行やカード会社に開示を求めます。
会社のプライバシーポリシーによっては裁判所の令状が必要なことや、海外の会社だと日本の警察に協力しないケースもあるものの、およそ日本ではほぼ全ての金融機関が警察に協力しているのが実態です。以前は顔なじみの銀行の支店長に頼んだり、天下りした警察OBを利用して正規の手続きを踏まずに調べていたケースもあったもようですが、現在では無いと思います。
ライフライン
水道、電気、ガスの使用・契約状況の確認です。事件捜査というより死亡(変死)の身元特定が主になります。たとえば1人暮らしでマンションの1室で孤独に亡くなっている人が見つかったとします。大家さんに聞いても身元が判然としないことも多いですが、公共料金には正式なフルネームが書かれていますし、そこから銀行口座や行政の窓口を調べれば様々なことが分かります。水道、電気、ガスは普通に生きていれば使用するでしょうから、使用が止まった時期が死亡の時期と予測することもできます。また、公共料金の支払人が別人名義だった場合などは、その人が家族や知人だったりすると、死亡を知らせたり、身元の確認に役立てることもできます。
病気・通院歴・歯形
死亡(変死)した人についての照会です。世の中、急に倒れて死んでしまう人は意外と多いです。さらに司法解剖をしても死因が分からないこともよくあります。そんな時、通院先の病院に聞けば「末期のガンだった」とか「不整脈の持病があった」とか「脳に血栓があった」とかの情報が得られ、死因を特定する助けになります。歯形も身元特定には必要なもので、歯科医師に照会をかけることがあります。生存している人の病歴は医師法の守秘義務があり漏らせません。
指紋やDNA
犯人だと“アタリ”をつけて捜査中の人物へ「ちょっと唾ください」とか「指紋をここに…」なんてことをしたら姿をくらませられてしまいます。だから家庭のゴミや、尾行中にゴミ箱に捨てたペットボトルなどを回収して指紋やDNAを採取するのです。捜査に使うための採取は合法ですが、それを裁判での証拠にできるかというとまた別の問題なので、逮捕してから正式に指紋とDNAを採取します。
買い物履歴・カードの使用履歴
近くのスーパーや量販店で何を買ったか、インターネットで何を購入していたかなども徹底的に調べられます。たとえば覆面で指紋やDNAを残さなかった強盗事件の容疑者でも事件の前に犯人が使っていたのと同型の包丁、目出し帽、靴を購入していた場合は現物が見つからずとも状況証拠として大きな意味を持ちます。
保険の契約状況確認
保険金殺人の捜査・・・ということもあるかもしれませんが、単純に死亡保険の受取人の家族や知人を探して亡くなった人の死亡の事実を知らせたり、身元を確認するために連絡を取る目的がほとんどです。
ネットの閲覧履歴
パソコンや携帯本体の端末を押収して調べるのが主流です。現物を犯人が処分したり隠したりしているときはプロバイダーに照会をかけてアクセスログを引き出します。たとえば、バラバラ殺人事件で犯行を否認している容疑者の閲覧履歴を調べて、「遺体 処分」とか「死体 処理」「殺人 懲役」などの閲覧履歴があれば、疑いは強まりますが、状況証拠でしかなく、犯人だと決めつけると冤罪を生む可能性があり、性犯罪の捜査でも「コイツは痴漢モノの動画ばかり見ているからクロだ」みたいな決めつけもしてはいけないコトだそうです。
ホテル・マンガ喫茶などの滞在履歴
逃走犯人の行方捜査、未成年の家出人、行方不明者の捜索などに使われます。偽名が使われる場合もありますが、外国人はホテルでパスポートのコピーを取られたり、マンガ喫茶では身分証の提示を求められたりするので以外と手がかりになるようです。警察手帳1つで開示しているのが実態ですし、観光協会や旅館組合で大々的に手配・照会をすることも多いです。
公共交通機関の利用履歴
スイカやクレジットカードを使っていれば一撃必殺です。現金で払っていても駅の防犯カメラやタクシー協会の無線網を駆使すれば網がかけられます。
警察内部への照会
恐ろしいことですが、監察事案では割とよくあることです。監察事案というと映画やテレビでは汚職や暴力団との癒着ですが、実際には社内不倫の調査がほとんどです。既婚の警部と若い巡査部長が日曜日にディズニーランド近辺で電話してるとかいうのを調べています。警察内部で開示が求められ、即座に会開示されます。悲しい仕事です。
※ないものはない
防犯カメラにしろ携帯の履歴にしろ保存期間が過ぎていたり、データがうまく保存されておらず、「ないものはない」という力の抜けるオチになることもあります。特に最近の携帯アプリはバックアップにお金をかけていなくて、1ヶ月ぐらいでデータが消えるとか、保存に失敗していたとはあるあるだそうです。
「監視」「傍受」されている人はごくわずか
事件の疑いがあって事後的に捜査を受けることがあっても、リアルタイムで携帯電話やメールのやりとりを傍受されたり、GPS端末で行動を監視されている人はごくわずかです。そのほとんどは警備公安が対象とする過激派やテロリスト的な傾向のある集団と暴力団の関係者で、前科前歴のある人たちが中心。そういった人物であっても監視対象にするためには、具体的な犯罪の容疑の根拠を持って裁判所から捜査の令状をもらわねばなりません。事件後の捜査の令状であればまだしも、まだ事件を起こしていない人のプライバシーを侵すとなると相当に高い容疑性が必要になります。普通に生活している人に対して、「アイツは最近生活が派手で怪しいから電話を聞いてみよう」などということは認められていないのです。
一方で物理的な尾行と監視は日常的に行われています。警察は「行動確認=コーカク」などと気軽に呼んでいますが、朝家を出るところから昼ご飯はマクドナルドだったとか、居酒屋で後輩と飲んだとか、奥さんと映画を見たとか愛人とホテルにしけ込んだとか、何もかも調べ上げられます。結果、事件と関係なかったとしてもそのまま情報だけ保管されています。結構恐ろしいことです。
警察の尾行は凄まじい訓練の集大成なので、一般の人が振り返っても、ただ、平凡な顔をした人たちの群れしか見ることはできません。
日本は警察がCIA的な権力を一手に持っている
日本では捜査権や逮捕権を持っている組織がいくつかありますが(厚生労働相麻薬取締部、国税局、海上保安庁、労働基準監督署etc※検察庁は警察とほぼ一体と見なします)その中で全国30万人というマンパワーと3000億を超える予算は圧倒的というか、他の機関と一切比べものにならないほど強大です。
警察官の多くは真面目な善人であると信じていますし、実際に仕事で会った人たちを思い浮かべても大半はそうだと思います。しかし、いかに自分たちが異様な特権を与えられ、重大な責任を負っているのかについて理解しているかというと、疑問を抱くことはありました。警察がいう「責任」は主に正義の行使、犯罪者の検挙、犯罪の防止という積極的責任のことで、自分たちの特別な捜査権限、逮捕権限で人や社会に甚大な影響を及ぼしてしまという消極的責任については理解が乏しいと言わざるを得ない人も少なくないと思います。
ごく普通に善良に生活していれば全く関係ない話なので、
そう気にしなくていいと思いますが。