どもめの記憶①
馬追いの兄妹愛

世の中には常人とは少し違う世界に生きている人たちがいます。
そういう人に出会う機会が多かったので少し書いてみます。
個人が特定されないように少しだけ改変しますが誇張はしません。
すべて実話です。

「Mさんてまばたきしないんですよね」

 

Mという男

関西地方の貧しい町で育った男性がいました。
仮の名前をMとします。
Mの父親は地元の暴力団の中堅幹部でした。
差別を助長することを恐れずに言わせていただきます。現在は見受けられなくなりましたが、半世紀ほど前までの関西には明らかに貧しい在日韓国・朝鮮人の人や被差別部落出身の人が多くいる地域がありました。そしてそういう地域の少年少女は非行傾向が強く出ていました(貧困・周辺環境の社会的状況の結果であり民族性や身分の問題とはまったく別個であることを付け加えさせてください)。
Mはそうした地域で育ち、周囲に同じ傾向のある少年少女が集まっていました。
幼いころから盗みやケンカを繰り返しました。
その中でもMの凶暴性、残虐性、反社会性は持って生まれたものとしか言いようのないくらいに強く、Mは地元でリーダーとなり暴力と犯罪に彩られた青春を過ごしました。
Mは粗暴ではありましたが、幼いころから「場数」を踏んでいたため、周囲の同世代がまだ暴れまわっている20代のころにはすでに落ち着きをもった人物になっていました。
学校の勉強はできなかったというか、全くしていませんでしたが、悪いことをして金儲けをすることに関しては頭の回転が速く、商売にも長けていました。
こういう「地頭」がいい人物は反社会的集団の中で一定数見受けられるような気がします。勉強をしたらそれなりの成績を収めたかもしれません。

 

人を操る能力と裏切る能力

Mは人の心を操る能力にもたけていました。
警察やヤクザには下手に出て可愛がられ、後輩、部下には人情味を装って接しました。
しかし、Mはしばしば親しくしてきた相手に態度を急変させ、手ひどく扱いました。慕っていたはずのヤクザを別のヤクザを使って追い込んだり、かわいがっていたはずの後輩の会社を乗っ取ったり、商売の付き合いをしていた相手に急に暴力を加えて服従させたりしました。
香港のマフィア映画のボスが「信頼していた人間から急に攻撃されると人間はなすすべがない」と言っていましたが、Mはまさにそれを実行する人間でした。
しかし、これは反社会的な集団の中では能力の一つです。思い切って相手をおとしいれてみれば利益が得られる、優位に立てるとわかっていながらも、そこにわずかながらの良心の呵責があり、実行できないものです。しかし、Mはそこが欠如していました。親しくしていたはずの相手に対してなんの憐憫もありませんでした。
こういう人物を「サイコパス」などというのかもしれませんが、そう簡単にカテゴライズするのが、はばかられるような独特の異様な人物でした。
ときどきMは人の心を失って、M自身も何かに操られているように見えることすらありました。

 

まばたきをしない

Mは穏やかな表情を装ったり、かわいげのある態度を取ったりする能力がありました。
でも、よくみているとそんなときでもMの表情は少し独特に見えました。
注意深く見ているとそれは「まばたき」をしないからだと気づきました。
本来、人間は目に潤いが必要なため、まばたきをします。
しかし、まばたきは一瞬ではあるものの目を閉じるので危険、スキが生じる行為です。人間もケンカなどで人と敵対しているときは、一時的にまばたきをしなくなるそうです。動物は人間に比べて危険が多いためにまばたきをしない習性が備わっているそうです。
確かに、野良猫と目があったりするとじっと目を見開いてまばたきをせずに視線を送り続けてくる時があります。少し近づこうとするとほぼ同時に素早く身構えます。人間はワンテンポ反応が遅いような気がします。
Mは常に動物的な状態で生きているのかもしれません。

 

愛妻家のM

そんなMですが、妻だけはとても大事にしていました。
Mはあまりほかの女性に関心がなく、妻のみに執心していました。
同居していて、ほとんど24時間一緒に過ごし、悪さをしてためたお金を妻に散在していました。
妻は少しわがままなところがあり、周りの部下たちも世話に手を焼くことがありましたが、妻といるときだけはMが穏やかなので安心していました。

しかし、2人の間には秘密がありました。

ある日、Mを知る人と焼肉屋で食事をしていた時にこんな会話になりました。

「Mさん、奥さん大事にしてるんですね」
「せやなあ。ぞっこんや」
「2号さんとかいないんですよね?」
「Mはあの子しかだめや。ほかに興味がないねん」
「まあまあいい年ですけどね」
「毎晩、抱いとるわい。お互い好きなんやと」
「あそこまで妻を好きになれるとは」
「あいつら籍はいれとらんで」
「え?そうなんですか」
「内縁や」
「なんで正式に結婚しないですか」
「実の妹と結婚できるかいな」

私は言いようのない不安に襲われました。
その人もそれを察知して、「せやからな」と目をそらすと「あいつはけだものなんや」と言って乱暴にご飯をかき込みました。
Mの妻はMの血のつながった実の妹だったのです。

 

妹もまた

ある日、Mは妹(妻)と部下を連れて高原地帯に旅行に行きました。
楽しく自然と触れあっているうちに牧場に差し掛かりました。
そこには馬が放し飼いにされていました。
しばらく馬を眺めているうちに妹が言いました。

「にいちゃん、これが死ぬとこみたい。
 そんで死んだらバラして食べようや」

妹に言われたMはとてもうれしそうな顔をしたそうです。
そしてその場で牧場の従業員に掛け合って馬を買い取りました。
夜は部下に命じてMと妹の前で屠殺を行わせました。
それは実に粗暴で残忍な方法でした。
部下たちもどうやったら死なせることができるのかわからないので、ただひたすらに金づちで馬の頭を殴り続けました。馬は激しく抵抗しました。泥の中を逃げ回るのを部下たちが追い回して頭を殴り続けます。その様子をMと妹は眺めていました。Mは映画に出てくる狂人のように大笑いしたり、することはなくじっと馬が息絶えていく様を見据えていたそうです。妹はとてもうれしそうに見ていたそうです。
馬が死ぬと、その場で丸ごとさばき、みんなで食べました。
命の食べ方としては本来の人間のあるべき姿ですが、返り血をあびた部下が解体し、その場で死体から肉をそぎ取って焼いて食べる光景は異様だったということです。
翌日も解体して食べ続けましたが、とても食べきれませんでした。
その場では食べきれなかった分を見つめていた妹は持ち帰りたいといいました。
そして自分が関西でやっている店で焼き肉用の七輪を用意して、なじみの客にふるまいました。自分と兄がつぶしたばかりの馬でとても新鮮だと自慢し、おいしそうに食べる客を嬉しそうに眺めていたそうです。特に臓物、ホルモンの部位が希少でおいしいとすすめたそうです。
本来、食肉は人間のあるべき姿だし、猟奇的な話としてとらえるべきかどうかわかりませんが、Mが妹に惚れたのはこういうところがあったからかもしれません。
Mと妹は今は少しいい歳になってきましたが、相変わらず仲良くしています。