2018/12/28
宮城県内の高速道路で救急車がトラックに追突。
同乗していた患者の付き添いの女性が死亡、5人が重軽傷。
運転していた隊員は自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで逮捕されたそうです。
逮捕の要件
事件の捜査では逮捕までに至らないケースがほとんどです。
逮捕の要件は証拠隠滅の恐れがあるときと、被疑者が逃亡する可能性があるときです。
逮捕というのは自由が認められている近代民主社会でその人の自由を奪って身柄を拘束することなのでとても重い手続きです。
なので、原則、事件を起こしたのがその人であることが明らかで証拠も保全されていて、被疑者が逃亡する恐れがない事件では逮捕して身柄を拘束することはできません。
とはいえ法を犯すような人なので、証拠隠滅や逃亡の恐れはあるでしょうということで逮捕してしまうこともあるでしょう。
現場の実務的な捜査の中での逮捕
逮捕されたほうが楽―という部分はあるようです。家族と顔を合わせなくて済むし、被害者に会いに行こうかとか仕事をどうしようかとか些末なことを考える機会を奪われとにかく警察に協力するしかない。
逃亡と証拠隠滅の恐れがなければ逮捕しないかといえばそうではありません。れほど悪質ではない人、今回の救急車の運転手さんのようにむしろ真面目な善人ではないかというような人も逮捕される人が数多くいます。
以下のような理由で逮捕が実際です。
※ただし、表向きはこれらの理由で逮捕することは人権侵害です。
1、自死防止
交通事故現場で「死んで詫びさせてください」という言葉を口にする人は意外と多いと警察官から聞いたことがあります。
特に子供さんを巻き込んだ死亡事故を起こしたりすると本当に真面目さが裏返って「私が生きているなんて親御さんに申し訳ない」と死を口にする人がいて、それは本当にこのまま返したら死んでしまうんではないかと思ってとりあえず逮捕するそうです。
また、このときによく言われるのが「自殺は事件の当事者という証拠を隠滅する行為」という言葉ですが、よく意味が分かりません。
2、マスコミ取材防止
事件を起こした人のところにマスコミがおしかけ、いわゆるメディアスクラムになることを避けるためです。容疑者本人の感情が高ぶって自死したりする危険もあります。
3、家族や友人と関わることを避ける
事件を起こしてしまった人を落ち着かないまま家族のもとへ帰すとまた色々なことが起きる可能性があります。「お前!自分のしたことがわかっているのか」と父親が攻め立てるかもしれませんし、逆に「こんなことを認めたら刑務所に言ってしまうから否認しなさい」と説得する母親がいるかもしれません。心無い友人が「お前は人殺しだなあ」とからかって罪の意識にさいなまさせたり、逆に良かれと思って「お前は悪くないよ」と励まして容疑者が反省しなくなったり妙な言い訳を始めたりするかもしれません。
4、被害者への接触防止
事件の被害者やその家族(遺族)に謝罪の目的で面会しに行く人は多いです。本当に謝罪の気持ちを伝えてお詫びしたいという人もいれば、示談をしたいという人もいます。
しかし、被害者やその家族(遺族)によっては不快に思ったり、激高して暴力をふるったりするかもしれませんし、「死んで詫びろ」とせまったり、タチのわるい人の場合は法外な示談金などを要求してきたりするかもしれません。
いずれにせよトラブルの原因になる可能性が極めて高く、特に事件直後であれば警察は推奨しないでしょう。
今回の隊員さんもわざと事故を起こしたようではないですし(逮捕容疑も過失)、こうした背景があって逮捕になったのかもしれません。
警察の本音
いろいろ書きましたが、本音でいえば「捜査が楽」というのが一番大きい利用のような気がします。逮捕してしまえば最長で20日あまりは警察の留置場にいさせることができて、好きな時に取り調べができるし、現場に連れていくこともできます。
記憶や気持ちが変わらないうちに調書を巻いて事件を処理することもできます。