暴力団ヤクザのシノギ資金源 賭博
インカジ インターネットカジノ 

「オッシャー!」

中堅エアコン設置会社のサラリーマンのS(39)は心の中で雄たけびを上げていました。

行きつけのインターネットカジノでバカラゲームを始めて4時間。終電をあきらめたところでここにきて5回連続で勝ち続けているのでした。
最初に店に預けたカネは2万円ですが、すでに11万円を獲得、9万円の勝ちです。月の手取りの半分ほどがわずか数時間で稼げたことになります。

Sは学生時代からパチンコやスロットが好きでしたが、国のギャンブル依存症政策に基づき、大当たり機種はなくなりました。
昔は1日に10万円も勝つ時もありましたが、現在、そんなロマンはなく、ロト6でキャリーオーバーにちょくちょく夢を託すばかり。

ある日、歌舞伎町のガールズバー酔っぱらってラーメンを食べた帰り道、「ギャンブルどうですか」と大学生風のキャッチに声をかけられました。
なんだいそりゃ?と言いながらもキャッチについていくと雑居ビルの中に入ると、見たこともないギャンブルの世界が広がっていました。

10台ほどのパソコンにSと同じようなサラリーマンや地元の商店主風のおじさんたちが向かっています。若いサラリーマンのグループは隣り合ったお互いの画面をのぞきあいながら、勝った負けたと楽しそうにしていて、アットホームな?パチンコ店の雰囲気に包まれていました。


「いらっしゃいませ」
若いアルバイト風の女性がおしぼりを渡してくれました。
「あたしエミっていいます。お飲み物はいかがいたしましょうか」
手渡されたメニューにはビール、ハイボール、ワイン、ウイスキー、ソフトドリンクが書かれています。
「あ、おいくらなんですかね」
もしかしたらカジノのふりをしたぼったくりバーではなかろうかと不安に思ったSがたずねると
「こちらすべて無料で飲み放題です」
エミちゃんはいたずらっぽく笑うと、メニューをひっくり返しました。裏には食のメニューが書いてありました。
カレー、牛丼、ラーメン、うどん、カツ丼、ナポリタン、たこ焼き、チョコレート、アイス、柿の種、ポテトチップス。これもすべて無料だということです。
「じゃあ、ハイボールと柿の種」
すぐにキンキンに冷えたハイボールとお皿に盛られた柿の種が運ばれてきました。

「あのー初めてなんでやり方が分かりません」
そういうとエミちゃんがやさしく説明してくれました。背中越しにマウスをいじるエミちゃんから少し甘いいい香りがします。最初はお店のサービスチップでバカラで500円をかけてみましょう-とのことでチップのアニメーションをマウスで動かして「BANKER」にベット(賭け)してみました。
「バンカーかプレイヤーってでてきますけど、深い意味はありません。右が勝つか左が勝つかを予想するだけです」
モニターに映されたバニーガールの白人女性がスッスッと笑顔でカードを引いていきます。

ペロンとカードをめくるとBANKER WIN!の文字。
「あ、お客さんの勝ちですよ!」
チップのアニメーションがくるくると回り5と書かれていた文字が10に変わりました。
「1ポイント100円なので10×100で1000円勝ちですね」
エミちゃんはパチパチと拍手をしてくれました。
「じゃあ、今の500円じゃなくて1000円賭けてたら?」
「はい、2000円の勝ちでした。2000円なら4000円、1万円なら2万円の勝ちです」

収支を考えると1万円賭けて2万円買ったら1万円の勝ちっていうのが普通じゃないか?などと考えましたが、ちょっと濃いめに作られたハイボールとエミちゃんの笑顔でそんなことはすぐに忘れました。最初は500円ばかりかけていましたが、すぐに1000円、2000円と賭ける金額が増えていきました。あっという間に最初に店に預けた1万円はなくなりました。すぐに2万円を店に払うとまたチップが振り込まれました。しばらくすると、5000円ほどの黒字になり、またすぐに1万円の黒字に。忘れていたギャンブルの夢がSの身体を満たしていくのが分かりました。

Sは月に何度も店に通うようになりました。エミちゃんとも店長さんとも顔なじみになりました。
店はいつもおいしい料理(通称まかない)を用意してくれていました。今日は野菜が安かったというので野菜が大盛りのヘルシー焼きそばだったり、ちょっと寒いなと思った日には鍋焼きうどんだったこともありました。

いつしかSは晩御飯を食べずに店を訪れ、ビールを飲みながら店の賄を食べて“ゲーム”にいそしむようになりました。エミちゃんはいつもやさしいし、料理もそこそこおいしい。Sにとってこの店はただのギャンブルの場ではなく、憩いの場となっていました。

20回ぐらいは通ったでしょうか。収支は5万円ほど負けていたような、10万円は負けたような気もしますが、もうわかりませんでした。タダ酒タダ飯を考えればまあいいか。そして今日の大当たりで黒字転換です。

さあ次は勝負で1万円張ってみるか?とSがマウスを動かしたとき、店の入り口が勢いよく空いて、スーツ姿のサラリーマン風の集団が入ってきました。
「はい、皆さん動かないでくださーい」
若手のサラリーマン風の男が呼びかけました。柔和な顔をしながら店にいる人の数をペンで指さしながら数えています。1、2、3、4、5、、、。

端の席に座っていたホスト風の男がた立ち上がると
「コラぁ!動くなって言ってんだろ!」
サラリーマン風の男がさっきとは別人のような形相で怒鳴りつけ、ホスト風の男は腰を抜かしたようにストンと椅子に座りました。

「警察でーす。これから店の捜索とお客さんの皆さんにお話を聞かせてもらいます」

近くにいたエミちゃんを見ると苦虫を噛み潰したような見たこともないような醜い表情をしてます。
「エミちゃん、これなに」
「ガサ入れですよ。チクショー」
「え?俺どうなっちゃうのかな」

ちょうどその時、女性警察官がエミちゃんの腕をつかんでいました。
「お店の人は別だからね」
冷たい声にエミちゃんは「はい。わかってますって。るっせんだよデコがよー」、舌打ちをすると店の外に連れ出されていきました。

エミちゃんの背中を見送る視界に別の警察官が割り込んできます。
「お財布とか身分証、携帯電話、全部出してください。あなたはお客さんですが、単純の賭博の疑いで捜査させていただきます」

1時間後、Sは店内で容疑の事実を読み上げられて手錠をかけられました。

副業サイトなどを探していると「オンラインカジノ」「インターネットカジノ」がひかかかります。まるで違法ではないかのように紹介するサイトもありますが、全く違法で逮捕されます。

インターネットカジノ


インターネットカジノ=インカジは「中継」とも呼ばれます。
フィリピンやアメリカ、香港、マカオなどのバカラ台にカメラが備え付けられていて、生身のディーラー(ほとんどは女性)がカードを動かしています。日本の客はそこにパソコンを使って仮想のチップに変えたお金をベット(賭け)して勝敗を争います。別にいろいろな手を使って自宅で直接インターネットに接続してやることもできますが、手続きが煩雑なので店に行ってやりたいという需要に応えています。

 

歌舞伎町中「オンラインカフェ」


歌舞伎町を歩いているとそこら中に「オンラインカフェ」の看板が並んでいます。看板に沿って店に行くと鉄の扉の上から防犯カメラがじーっとこちらをとらえています。インターフォンを押しても反応はありません。
客引きが身分証を確認した場合にのみ、店に案内されます。
一見さんお断り?の敷居の高さを感じずとも街をウロウロしていたらすぐに「ギャンブルは?」「インカジは?」とキャッチのお兄さんたちが声をかけてくるのでそれについて行けば良いだけです。
警察の摘発は怖くないのかと思いますが「100店舗近くあるうち、年に2、3店舗の摘発」なので「そんなもんが怖くて不良やってられねえ」ということだそうです。

 

パソコンゲーム感覚で誰でもハマる


インターネットカジノはとてもシンプルで手軽です。
ルーレットとバカラが中心で運任せの要素が強くあまり考える必要もありません。
画面に映し出されるディーラーは生身の人間ではありますが、どこか少しCG感があるバニーガールやチャイナドレスの美女です。ゲームのような感覚で遊ぶことができます。
レートは500円からと極めて少額で、ラスベガスやマカオのカジノのように「一財産」を賭けるような大げさなものではありません。
また、相手がパソコンなので生身の人間ディーラーとのわずらわしいやりとりもありません。
一番の魅力は「賭けたいときに賭けられる」ことだと言います。生身のディーラーや他の客がいると毎回ゲームの度に賭けなくてはいけない雰囲気があり、「なんか今は流れが悪いな」とか「このディーラーはいやだな」と思っても賭け続けなければなりません。
ほとんどの店では飲み物や軽食も無料で振る舞われます。適当にご飯をつまみながらカチカチと気が向いたときに賭けて、1000円、2000円程度の儲けに一喜一憂するのは気が楽で楽しいでしょう。

インカジは合法という大きな誤解


インターネットカジノについて「胴元が外国にいるので違法ではない」というワケの分からない都市伝説が横行していますが、全くの誤りです。明確な賭博行為で違法行為です。
繁華街の雑居ビルなどでパソコンを並べてインターネットカジノを店にさせている店は客からカネを集めてカジノを楽しませているので、その店自体が「胴元」になります。なので店―賭客という単純な図式で客も逮捕されます。

この場合店は賭場を開いて利益を得たので
「賭博開帳図利(とばくかいちょうとり)」の容疑

客は賭博行為に参加した
「単純賭博」の容疑

でそれぞれ逮捕されることが多いようです。
客は容疑者であると同時に店の容疑を立件するために取り調べを受けます。
何時から何時までいくら賭けたのか、店とはどのようなやりとりがあったのかを詳細に聞かれた上で「もうこんなことをしません」という念書や反省文を書かされて釈放されます。
しかし、捜査が進むとたびたび呼び出され証言を取られたり、調書に拇印をおさせられたります。当然ですが前科がついてしまい一生、警察に登録されることになります。

さて、Sが警察の世話になって15時間ほどが経ちました。
道場のテーブルの上で何度も同じ話を聞かれました。
もうこんなとこ行っちゃだめだよと警察官に背中をたたかれ、やっと釈放されたときにはもう昼の2時を回っていました。

警察署で返された携帯をおそるおそる見てみると、会社からの着信が10件以上ありました。
そうか、きょうは朝から課長と得意先回りだったんだ。

課長に電話をかけると意外とやさしい口調で
「おい、大丈夫か。みんな心配したぞ」と聞かれました。
会社にはバレていないみたいです。
とっさに「朝から吐き気と頭痛がして病院に駆け込んでました」とうそをつきなんとか取り繕いました。心配してくれる課長の声に自分が情けなくなりました。

電話を切るとグーっと腹が鳴り、きのうのまかない依頼何も食べていないことに気づき、警察署の近くの定食屋に入りました。

定食屋のテレビを見ていると民放のニュースがやっていました。
「インターネットカジノ店 摘発」のニュースが飛び込んできました。
ニュースはわずか30秒もないほどでしたが、警察がパソコンを押収する様子と関係者が連行される様子が映し出されていました。

「店の従業員の・・・・」

そこには果たしてエミちゃんの姿もありました。
テロップには「無職 〇山〇子」という文字が流れていました。

エミちゃんじゃなかったんだな、Sはそう思いながら味噌汁を飲み、自分が犯罪者になったことを実感しました。