生まれたからには「王」になりたい―
と思うかも知れませんが、チェスでも将棋でも終わってみればキング(王将)がやられて、それをナイト(桂馬)が気楽に眺めていたりします。
ヤクザにはごくシンプルに2つの目標があります。
一つは出世を極めて組を持ち親分になること。
一つはカネを稼いで羽振りのいい暮らしをすること。
そもそもなぜヤクザの世界で出世を目指すのかという疑問があります。
社会的にはなんの価値も認知されていない組長や若頭、理事長、幹部などという肩書きがほしいのか私たち一般人には理解ができません。しかし、それは不良の発想・ヤクザの価値観で単純に人の上に立ちたいという気持ちからのもののようです。小学校ではガキ大将、中学校では番長、暴走族や愚連隊では総長になってきたというような人たちの集団でヤクザ社会は明確に縦の序列ができて出世レースがよくわかるのでので彼らの不良魂が燃えるのも自然なことです。
普通の会社では出世とカネはセットで平社員→係長→課長→部長→社長と出世するに従って給与も上がっていきます。しかし、現代のヤクザ社会は不思議なもので、役職とカネが必ずしも比例するわけではありません。喧嘩の強さや人望、これまでの功績(懲役)から大幹部の役職はあってもおカネはスッテンテンという人がかなりの数います。一方で、平組員なのに目端が利いて、信じがたいカネを持っている人もいます。
ヤクザは出世すればするほど上納金が集まって裕福な暮らしができるというのが定説ですが、それは本当の大親分に限ってのことで、ヘタに中堅幹部になったら上納金と冠婚葬祭(義理事)の度にカネを払いながら、事務所の維持費、若い衆の面倒まで見なくてはならなくて支出の方が多くて生活が困窮します。
また、ヤクザは偉くなれば幹部会に出たり、親分と食事をしたり、当番責任者になったりと自由を奪われます。本来、若い組委員こそこき使われまくって大変なのですが、最近はそういうことをするとすぐやめてしまうのでゆるくしています。
また、トラブルや抗争事件が起きた時は指揮をとらなければなりませんし、最悪末端組員の犯した犯罪で命令から共謀を取られたり、民事的に使用者責任を追及されて裁判や賠償の義務が発生することもあります。
結果、ヤクザの世界でえらくなってもカネも自由もなくなっちゃうじゃん―となり全く出世に興味がなくてカネさえ儲かればいいという考えの人たちが増えてきています。
歌舞伎町や六本木にはオレオレ詐欺や覚せい剤、金塊密輸などでうなるほどカネを持っていて組長以下幹部も頭が上がらない「末端構成員」が増えています。
彼らは高級車を乗り回し、キャバクラやクラブで毎晩豪遊していて、事務所当番は免除されていたりします。
正式なヤクザの組員であるというのは敵対する連中と渡り合うのに必要な看板ですが、組長だの若頭などという肩書はカネと自由がなくなる邪魔な肩書だと思っています。