なぜ、ヤクザと芸能界は切っても切れない関係なのか。今回はそもそもヤクザがやっている芸能事務所を分析します。
◆ヤクザのカネと生活を支えるフロント企業
ヤクザは賭博や薬物などで違法に稼いだ表に出せないカネを現金そのままでタンス預金しています。必要に応じて現金を鷲掴みにして夜の街で散財したり組の会費を支払ったりします。
しかしそのカネはどこまでも「裏金」で現金取っ払いの「消えモノ」にしか使えません。莫大な現金をもっていても大がかりな資産の購入を行えば警察や税務署から追及を受けることになります。
また暴排条例施行後、ヤクザはマンションの賃貸契約、預金通帳やキャッシュカードすら持つことができません。そこでヤクザはこうした問題を解決するためにフロント企業(企業舎弟)を設立します。
違法に得た資金をフロント企業の収益に見せかけて表に出せるカネにします(マネーロンダリング)。また、フロント企業名義で合法的にマンションを借りて銀行口座を開設し、人並みの暮らしを手に入れます。
◆一般企業で売り上げを偽装するのは大変
しかし、会社を設立してウソでも経済活動を行えば、税務署や警察の監視を受けることになります。税務署は突然、莫大な売り上げを生み出した会社があれば厳しい調査を行います。
たとえば、ヤクザが1億円の違法な資金を洗浄しようと文房具問屋のフロント企業を開業したとします。ボールペン1本100円で卸すとして1億円の収益を計上するには100万本の取引を偽装しなければなりませんが、日本の文具業界をゆるがす巨大取引で業界をちょっと調査すればすぐに架空取引とバレるでしょう。じゃあボールペン1本10万円で1000本で申告してごまかそうとしても社会手経済的な「相場」から著しく逸脱しているためこれも異様な取引として見つかってしまいます。
企業を設立してまともな商取引をでっちあげるのは案外、大変なことです。
◆芸能には「相場」がない!
そこで、便利なのが芸能事務所です。
あるフロント芸能事務所は社長以下全員カタギです。所属するモデルG子ちゃん(20)がクラブのイベントに呼ばれ、出演料として50万円の支払いを受けました。
事務所からクラブへの領収書はこんな感じです。
ここで、「芸能人」がクラブで「なにか」をして「五十萬円」が高いか安いかを考えてみます。
①安室奈美恵さんがメドレーを歌う
絶対的に安い気ですが、妥当な額は100万円?1000万円?1億円?よくわかりません。
②有村架純さんがMCで盛り上げる
今を時めく有村さんが深夜にわざわざMCをしてくれるんなら、かなり安いような。
③壇蜜さんがノリノリでDJプレイ
ちょっと高い気もしますが、いや、でもかなりレア?と考えると安い気がします。
芸能人に支払われる対価は「この人がこれをやったらいくら」という明確な相場がありません。
先に紹介したモデルのG子はインスタグラムのフォロワーが1000人いて、当日のクラブの写真にもたくさんのお客さんが群がって記念撮影をしています。税務署がクラブに反面調査をしに行くと「G子チャンのインスタをみた女の子が大量にきてくれました。さらに、その女の子たち目当てに男のお客さんも増えて五十万円以上の利益がありました」との返答。本当にそうかもしれないし、そうでないかもしれない。誰にも分りません。
G子はこのほか「誕生日パーティーの司会」「美容院のオープン記念イベント」「アパレル会社のイメージキャラクター」などフワフワした「相場不明」な催しものに出続け、そのたびに10万、20万と稼いで、1年間で事務所に年商2000万円をもたらすスーパースターになりました。G子の人気は継続的に5年間も続き、1億円の大台を突破しました。
※税金が気になるところですが、ヤクザ仲間で飲み食いしたり領収書や無用の「宣伝費」などを経費で計上した上、フロント企業同士のでっちあげの相互借金などを偽装してかなり節税します。とにかく一般の業態に比べて芸能は経費などが曖昧複雑で、実態の解明が困難な仕組みになっています。詳しくはまた別途。
◆ミもフタもないカラクリ
「ヤクザが芸能事務所をやったらモデルの子が当たったのか」と思うかもしれませんが、芸能界はそんなに簡単に成功できませんし、まして5年間も人気を維持できるタレントは一握りです。
実はこの芸能事務所はどこからも支払いを受けていません。ただひたすらにカラの領収書を切って、そのたびに違法な「裏金」を収益として計上し、洗浄しているだけです。
芸能事務所には架空の利益50万円分をを計上できるメリットがあり、クラブには架空の経費を計上して節税できるメリットが発生する取引です。双方が弱みを握りあって、税務署の反面調査が入っても架空の取引を話すことはありません(そもそもどちらも同じ系列のフロント企業だったりしますが)。
G子には給料5万円もあげれば大喜びです。
このシステムでいろいろな企業と契約を結び、時がたつとそもそもG子を全く派遣しないでカラの領収書だけが舞うようになりました。「ホンモノの芸能人」のように人気の上下は関係なく継続的な架空のシゴトが続き、違法な収益が表に出せるカネに姿を変え続けます。こうして手にした1億円は会社が自由に使ってよいカネです。
社長は六本木にマンションを買い、実際はヤクザと愛人が住みます。何かあってお金が必要になったときはヤクザの一言で社長は部屋を売却し、現金をヤクザに渡します。ヤクザは社長名義のカードで豪遊し、社長はせっせと渡された領収証を張り付けて経費処理を行います。フロント企業というものは絶対的なヤクザの支配下にあり、雇われ社長はいくらかの給料をもらう代わりに、会社の資産はすべてヤクザが自由自在に使える仕組みになっています。まさに舎弟なのです。